PETシステム

MEDICAL NOW No.57

MEDICAL NOW No.57

分子イメージング研究に向けた高感度・高分解能PET用検出器の開発

放射線医学総合研究所 医学物理部
村山 秀雄

はじめに

ポストゲノム時代に国家が戦略的に取り組むべき研究として、分子イメージング研究が米国で提唱され、世界でにわかに注目を浴びている。これは、基礎に留まっていた分子生物学の成果を臨床応用に結びつけようとする革新的計画である。遺伝子発現に関わる微量物質の生化学的挙動を生体まるごとの測定で非侵襲的に探索することで、各種病変や疾患のメカニズムを科学的に解明する。同時に、これらの成果を創薬や予防医学に直結させて臨床現場にすぐ役立てようとする広範な試みは、個別の学会が単独で主導できるものではない。このような計画は、国家的な規模の戦略に基づいて、優れた指導者の下に組織を超えた多くの専門家が動員される必要がある。既に米国では2002年にNIBIB(National Institute of Biomedical Imaging and Bioengineering)を立ち上げて、分子イメージング研究を担う拠点を全米の7カ所で選定し、さらに拠点を増やす計画である。同時に、Stanford 大学のように自前の予算で新規研究所を立ち上げて、国家とは一線を画した独自路線を模索する所も出現しており、企業側でも新しい市場の開拓を目指した具体的な動きが見られる。
遺伝子改変動物や疾患モデル動物などを用いた分子イメージング研究用の計測装置として、小動物PET装置は必要不可欠となっており、現在でも70台を超える小動物PET装置が世界で使用されているという。一方、PETの原理に立ち戻ってその潜在力を見直すと、感度と解像度を共に改善できるPETの特長を、現状の装置は活かしていない。同時計数測定によるPETのデータ収集方式には、技術的に挑戦すべき課題がまだ多く存在し、ハードからソフトに至る信号処理においても、革新的な高速技術が要求される。特に、信号を取得する要である放射線検出器に関して、この十年間以上技術の停滞が見られると判断されたので、放医研では新しいPET用検出器を最重要な要素技術と位置づけて、人体頭部用PET装置の開発プロジェクトを5年前に発足させた1)最近、このプロジェクトの副次的成果として、高性能小動物PET用の新規検出器の実現に道を開いた2)ので、以下に紹介する。

  • 1) 棚田修二,村山秀雄編:平成16年度次世代PET装置開発研究報告書, NIRS-M-178, 放射線医学総合研究所発行, 3月, 2005.
  • 2) Tsuda, T., Murayama, H., Kitamura, K., Inadama, N., Yamaya, T., Yoshida, E., Nishikido, F., Hamamoto, M., Kawai, H., Ono, Y. : Performance Evaluation of a Four-Layer LSO Detector for a Small Animal DOI PET Scanner: jPET-RD., 2004 IEEE Nuc. Sci. Sympo. & Med. Imag. Conf. Record., M8-2, 2004.

高解像度・高感度小動物PET装置jPET-RDの概念図(左)と,DOI検出器(右)。