PETシステム

MEDICAL NOW No.54

MEDICAL NOW No.54

特別寄稿 分子イメージングの現状と将来

京都大学医学研究科 教授
京都大学医学研究科附属高次脳機能総合研究センター センター長
脳機能イメージング領域
福山 秀直

はじめに

分子イメージングという言葉が一般に広く使われ出したのは近年のことである。ポストゲノムプロジェクトとして米国などで多くの研究者が多額の研究費を使って研究しているということ、‘サイエンス’1)など米国の主要なジャーナルに特集として分子イメージングが取り上げられたこと、さらに、そのための学会が立ち上がっていることなどなど、諸外国での著しい発展の他に、本質的にはヒト遺伝子解析が完了し、いわゆるgene hunting、すなわち、新しい遺伝子の発見だけでは新しい展望・展開が望めず、遺伝子情報だけではさまざまな生体現象を説明するには十分でないことが多くの研究者に認識されるに至ったからである。これからの生命科学の方向性を模索するなかで、これまで解明された遺伝子の動態をinvivoで観察し、どのような変化が生体に生じるか、新たに発見された遺伝子からできる蛋白の機能はどのようなものかを生体で観察し、その意義を解明すること、また、遺伝子改変動物や遺伝子導入動物が遺伝子の変化でどのような発育をするかを、非侵襲的な画像装置を用いて経時的に観察し、その意義を解明することが可能になったことなどが、この分野の進展を後押しし、重要視されるようになった大きな原因である。
しかし、イメージングという手法は、新しい物質を探索するという生化学的な研究とは異なり、既知の物質の存在部位・存在様式とその機能を同時に観察し評価するための研究手法で、新しい物質を発見する手法ではない。したがって、その観察によって何か新たなものが発見されるという、たとえて言えば、天体観測などとは異なっている。むしろ、遺伝子情報を操作した場合、その個体内で生じているさまざまな現象を画像として観察することで、たとえば、マウスなどを殺すことなく、経時的に観察して、遺伝子改変の影響を見ることができる。何匹もの動物を必要としないこと、一匹の経時的な変化を追えることができるという点が重要である。そのための手法として、分子イメージングが重要視されているのが現状である。

1)Herschman, HR. Molecular Imaging: Looking at Problems, Seeing Solutions,
Science 302; 605-608, 2003.

4)Kobayashi, H. et al. Comparison of dendrimer-based macromolecular contrast agents for dynamic micro-magnetic resonance lymphangiography. Magn Reson Med 50 : 758-766, 2003.

5)Kim, D-E., Schelingerhout, D., Ishii, K., Shah, K., Weissleder, R. Imaging of stem cell recruitment to ischemic infarcts in a murine model. Stroke 35 : 952-957, 2004.

MRI造影剤によるリンパ管造影

MRI造影剤によるリンパ管造影
(文献4より引用)

虚血巣とES細胞の集積

虚血巣とES細胞の集積(文献5より引用)
白矢印:ES細胞を注入した部位。bは偽手術。aは脳内へ,cは脳室内へES細胞を注入。a,cいずれの場合も梗塞巣(対側の黄矢印の部位)へ,細胞が集積していることが,ルシフェラーゼを使った光イメージングでわかる。