Minimally Invasive Experience

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下肢領域の血管内治療でTriniasのアプリケーションを最大限に活かす

同愛記念財団 同愛記念病院 循環器科
高橋 保裕 先生

1. はじめに

当院は1923年(大正12年)9月1日の関東大震災後の1924年(大正13年)4月28日にアメリカ合衆国からの義捐金を元に設立された。死者3万人以上を出し、最も悲惨を極めた陸軍被服廠に近接する現在地(安田邸跡・墨田区)に位置する。現在は373床を有する総合病院であり、循環器科は常勤医師5名で診療を行っている。2015年における循環器科の救急車受け入れ数は787件、急性心筋梗塞受け入れ数は104件と循環器救急疾患の診療に力を入れているが、近年患者数の増加している末梢動脈疾患(PAD)の診療にも積極的に取り組んでいる。そのような状況下において血管撮影室2室でカテーテル検査・治療を行っており、第一血管撮影室はBRANSIST safire(9インチ・シングル)、第二血管撮影室はTrinias(12インチ・シングル)(Fig.1)といずれも島津製作所社製血管撮影装置を使用している。BRANSIST safireもカテーテル治療を行う上で満足のできる装置であったが、2014年3月から導入したTriniasにおいては画質が優れているだけでなく、アプリーケーションが豊富であるため、より質の高い治療を行う上で非常に重要な役割を果たしている。本稿では末梢下肢血管内治療を行った実症例を提示しながらTriniasの機能について紹介したい。

2. 末梢血管内治療に有効なTriniasの主なアプリケーション

  • (1) SCORE RSM
  • (2) 回転アンギオ(SCORE RSMモード)
  • (3) ピークホールド機能
  • (4) MAP機能、Trace MAP機能
  • (5) Sketch機能
  • (6) Blank MAP

(1) SCORE RSM(Fig.2)

下肢動脈は骨、血管との重なりが多く、特に膝下動脈においては従来のDigital Angiography(DA)では血管をきれいに描出するのが困難であった。また、Digital Subtraction Angiography(DSA)は骨の影響を排除するため血管の描出能には優れているが、撮影は寝台を固定して行わなければならず、下肢全体の撮影においては数回の撮影が必要となる。さらに撮影中の対象の動きには非常に弱く、不随意運動の多い重症下肢虚血症例においては良好な画像を得ることが困難であるなど欠点も多かった。SCORERSMは造影中の収集像から低周波マスク像を生成し、これをマスク像としてリアルタイムに減算処理することで寝台を動かしながら撮影することができ、造影剤が注入された血管の相対的強調画像を作ることでDSAに近い画像を得ることが可能である。

Fig.1
Trinias(12インチFPD搭載シングル)を導入している第二血管撮影室にて。

Fig.2
膝下動脈で施行したSCORE RSM
骨の陰影が多い下腿、足部においても血管がコントラスト良く明瞭に描出されている。

(2) 回転アンギオ(SCORE RSMモード)(Fig.3)

従来からDA、DSAによる回転アンギオは行われていたが、DAによる回転アンギオは骨陰影の影響を受けやすい部位での撮影には適しておらず、DSAによる回転アンギオは動きに弱いという欠点があった。そのような点からとくに循環器領域おいては回転アンギオは頻繁には行われていなかったが、SCORE RSMは骨陰影の影響を可能な限り除去し、また患者の体動の影響を全く受けないという点で非常に有用な撮影モードになっている。とくに膝下動脈における側副血行路や足底動脈弓の描出には威力を発揮し、ガイドワイヤーの側副血行路通過に際しては適した透視角度情報とリファレンス画像が得られる(Fig.4)。

Fig.3
腓骨動脈から側枝へ挿入したマイクロカテーテルからのSCORE RSMによる回転アンギオ骨陰影がありながらも側副血行路はきれいに描出されている。
白矢印:腓骨動脈に挿入されたマイクロカテーテル
黒矢印:前脛骨動脈遠位部
白(点線)矢印:腓骨動脈から前脛骨動脈への側副血行路

リファレンス
画像

透視画像

Fig.4
SCORE RSMによる回転アンギオから得られた情報からガイドワイヤーが位置しているそれぞれの部位で側副血行路がもっとも伸びる角度の透視像(右)でリファレンス画像(左)を参照しながらガイドワイヤーの通過を行っている。
矢印 ガイドワイヤー

(3) ピークホールド(Fig.5)

撮影した各フレームの黒ピークを抽出処理する機能である。撮影対象血管の部位毎に造影剤の流入に時間差が生じるため、1フレームの中で血管に濃淡ができることがある。ピークホールドを用いることで撮影対象血管各部位において最も濃い造影剤情報が抽出され1枚の画像が作製される。とくに最近、腎障害症例で施行されることが多くなっている炭酸ガス造影では、通常のヨード造影に比較して各部位毎のコントラストがフレームによって大きく異なるため、ピークホールド機能は非常に重要な役割を果たしている。

Fig.5
大腿動脈の炭酸ガス造影
血管のそれぞれの部位はフレームによりコントラストに大きな差があることがわかる。それぞれの部位(丸囲み)で最も濃度の濃い血管情報を抽出処理する機能がピークホールドである。

(4) MAP機能、Trace MAP機能

MAP機能は撮影した画像から造影剤の注入された血管を抽出し、透視像に反映させる機能である。ステント留置時の位置合わせやガイドワイヤーによる分岐血管の選択に有用であるが、従来のMAP機能は白く塗られた血管が透視像に反映されたため血管内にあるデバイスの視認性が悪くなることがあった(Fig.6)。また、撮影した画像の血管と血管外の白黒が明確でないと血管画像が透視像に良好に反映されないなどの欠点があった。
Trace MAPは血管の辺縁を自動的に白線で縁取り、それを透視像に反映させることができる。Trace MAPでは抽出領域を技師が血管の状況を確認しながら自由に処理できるため、造影剤によるコントラストがあまり得られない状況でも使用できる可能性がある。また、血管の辺縁のみが縁取られるためガイドワイヤーが血管内を通過している状況も比較的視認しやすくなる(Fig.7)。

Fig.6
特発性下腿血腫症例
A:DSAにて出血点(黒矢印)を確認。
B:DSAにて得られた画像を元にMAPを作成し、出血点(黒矢印)へ向かってガイドワイヤー(白矢印)を挿入。
Fig.7
右膝下病変への治療例
術前に腸骨動脈領域の情報が超音波で得られなかったため右総大腿動脈を直角穿刺しガイディングシースを腸骨動脈へ挿入し造影。造影後に膝下病変への治療のためにガイディングシースを中枢側から末梢側へ挿入し直す必要があった(スイッチバック法)。本例ではDSA(A)から得られた画像を元にTrace MAPで血管辺縁を描出(B)。シースが抜けないようにていねいに引き抜きながら(C)、ガイドワイヤーを遠位方向の深大腿動脈へ挿入(D)。浅大腿動脈へガイドワイヤーを誘導する必要があり、同様にTrace MAPを確認しながらガイドワイヤーを浅大腿動脈へ誘導することができた(E)。
白矢印:ガイディングシース  黒矢印:ガイドワイヤー

(5) Sketch機能(Fig.8)

Sketch機能は自由に描画した直線や曲線などを透視像に反映させる機能である。重要な分岐や事前の撮影で決めたステントのランディングポイントなどに直線などでマーキングすることにより治療を行う上でのランドマークとして使用することができる。目的とするところはMAP(Trace MAP)と近い機能ではあるが、当院ではステント留置時においてはMAP(Trace MAP)ではなく、Sketch機能を用いている。理由はステント留置においてはシンプルに直線などのランドマークにランディングした方が留置しやすいからである(MAP あるいはTraceMAPのように解剖学的構造が透視像に映るといろいろな情報が頭にインプットされてしまうため)。

Fig.8
総腸骨動脈への自己拡張型ステントの分岐部直後からの正確な留置
白矢印:ステント遠位端マーカー
黒矢印:Sketch 機能による直線ライン

(6) Blank MAP機能

Triniasに最も新しく導入されたソフトウェアである。サブトラクションされた透視像に新たにデバイス(X線不透過物質)を透視範囲内に追加することで骨陰影などの影響なく、デバイスが強調されて視認できる機能である。特に脳血管内治療において、追加のコイル留置時に先に留置したコイルの影響で追加中のコイルの留置が視認しにくいことがある。その際にBlank MAP機能を使用することで、先に留置したコイルをサブトラクションし追加のコイルの視認を容易にすることができる。当院ではBlankMAPを下肢の血管内治療に有用な方法として主に以下の3つのシーンで使用している。

(6)-1 Blank MAP使用ケース1 - デバイスの持ち込み時(Fig.9)

下肢領域では骨と血管の重なりが多く、あるいは他のデバイスに隠れて新規に挿入するデバイスが透視で見えにくい場合がある。そのため、バルーンの先端マーカーあるいはガイドワイヤー先端を見過ごして観察範囲を超えて進んでしまい、血管穿孔などを引き起こす危険性がある。Blank MAPを使用すると元々透視に映っていたデバイスあるいは骨陰影などがサブトラクションされるため新たに挿入されたデバイス(ガイドワイヤー、バルーンなど)を強調し描出させることができる。有効に使用することでデバイス挿入時の合併症を低減できる可能性がある。

Fig.9
ガイドワイヤー挿入時の比較
( A:通常の透視モード、B:Blank MAPモード)
ガイディングシースおよびマイクロカテーテル内を進むantegrade approachのガイドワイヤーは通常の透視モード(A)に比較し、Blank MAPモード(B)においては挿入中のガイドワイヤーを意識しやすい。 白矢印:antegrade approachのガイドワイヤー先端
黒矢印:マイクロカテーテル先端
白(点線)矢印:retrograde approachのガイドワイヤー

(6)-2 Blank MAP使用ケース2 - バルーン拡張時(Fig.10)

石灰化や骨陰影などによりバルーンの拡張が十分かどうか判断できないことがある。このような場合もBlank MAPを使用してバルーン拡張前の透視像をサブトラクションすることでサブトラクション後に拡張を始めたバルーンの拡張度合が確認できる。

Fig.10
下腿治療におけるバルーン拡張
骨辺縁とバルーンが重なるため通常の透視モード(A)の場合はバルーンの拡張度合の評価が一部で困難。Blank MAP(B)では骨の陰影がサブトラクションされているためバルーンが十分に拡張しているのがわかる。

(6)-3 Blank MAP使用ケース3 - バルーン移動時(Fig.11)

一回のバルーニングでは病変をカバーできないときの、複数回のバルーン拡張時にBlank MAPを使用することができる。バルーンを病変にデリバリーした状態でBlank MAPモードにし、バルーン拡張を行う。再度、透視スイッチを踏みバルーンを近位部に移動させると最初の位置でのバルーンマーカーが陰性になるため白く抜けて映る。これを利用して最初のバルーン位置ぎりぎりで2回目のバルーンニングを行う場合には、白抜きになった近位のバルーンマーカーに移動している遠位のバルーンマーカーを合わせることで効率的にバルーン拡張を行うことが可能である。

Fig.11
浅大腿動脈狭窄病変へのバルーン拡張
病変部へバルーンをデリバリーし(A)、Blank MAPモードオンの状態で最初の位置でバルーン拡張を行い(B)、デフレーション後にバルーンを病変近位部へ移動(C)。最初のバルーン位置の近位部マーカー(白矢印)と移動中の遠位部のバルーンマーカー(黒点線矢印)を合わせて2回目のバルーン拡張を行った(D)。拡張時に最初のバルーン位置の近位部マーカー(白矢印)と移動中の遠位部のバルーンマーカー(黒点線矢印)がずれており、スリップしたことがわかる(E)。

まとめ

近年の下肢血管内治療の進歩はめざましく、良好な初期成績が得られるようになったが、手技による合併症はヒューマンエラーの問題も含めて今後克服すべき課題として残っている。一方で血管撮影装置の進歩も著しく、きれいな画像を提供するだけでなく治療を行う上で様々なアプリケーションを使用できるようになっている。Triniasは下肢治療用を目的に開発されたものから他領域を目的に開発されたものまで多くの有用なアプリケーションを有している。これらのアプリケーションを術者が最大限使用することはさらなる初期成功の改善だけでなく、手技による合併症を低減する上でも必要なことである。